退去費用の壁紙(クロス)代、請求書が届いたらまず確かめる2つのこと

机の上に請求書と賃貸借契約書を並べ、虫眼鏡やペンで内容を見比べているイメージ

賃貸の部屋を退去したあと、管理会社から原状回復費用の請求書が届き、壁紙(クロス)の張り替え代が思っていたより高くて驚いた。立会いのときに傷や汚れを指摘されて、その場で確認の書面にサインもしてしまった。この金額は払うしかないのか、どこかおかしいところはないのか、と不安になっている方もいると思います。

先に結論をお伝えします。退去費用の壁紙代は、全額を入居者が払うものとは限りません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、年数とともに起きる変化(経年変化)や、普通に暮らしていて生じる傷み(通常損耗)の修繕は、貸主の負担とする考え方がとられています。入居者が負担するのは、故意や不注意でつけた傷など、通常の使い方を超える傷みの分で、その場合も、壁紙は6年で残存価値が1円になるという考え方を基本に、経過年数を考えて負担割合を計算するので、長く住んでいるほど入居者の負担は小さくなります。ただし、契約書に有効な特約があれば、扱いが変わることがあります。

そのため、請求書を受け取ったら、まず「請求書の内訳」と「契約書の特約」の2つを確かめます。立会いでサインをしていても、それだけで請求された金額をすべて認めたことになるとは限りません。

この記事を読むと、次のことが分かります。

  • 退去費用の壁紙代で、最初に確かめる2つのこと(請求書の内訳と、契約書の特約)
  • 原状回復の基本ルール。経年変化・通常損耗は貸主の負担で、壁紙は「6年で残存価値1円」と考えること
  • 単価が高いと感じたときに、内訳の説明を求められること。グレードアップの分は負担しなくてよいこと
  • 立会いでサインしたあとでも、疑問があれば主張できる場合があること
  • 特約があるときの見分け方(ガイドラインが示す3つの要件と、契約書の書き方)
  • 明細が届かない、話し合っても納得できないときの相談先(消費生活センター、日本賃貸住宅管理協会など)

読み終えるころには、手元の請求書と契約書のどこを見て、管理会社や大家さんに何を聞けばよいかが分かるはずです。

退去費用の請求に疑問がある入居者の方は、まず管理会社・大家さんに明細の説明を求め、それでも解決しなければ消費生活センター等に相談してください。当店では、入居者様からの退去費用(請求額)についてのご相談はお受けしておらず、張り替えのお申し込みも、まず大家さん・管理会社へのご確認をお願いしています。入居者の退去後に張り替えを考えている大家さん・管理会社の方は、無料の現地調査・お見積もりをご利用ください。

電話が難しい方はでもご相談いただけます。


退去費用の壁紙(クロス)代、まず確認する2つのこと

請求書の金額だけを見て「高い」「仕方ない」と判断する前に、手元にある書類で確かめられることがあります。見るのは、請求書の内訳と、賃貸借契約書の特約の2つです。

請求書の内訳(単価・範囲・経過年数の考え方)

まず、請求書や精算書に、壁紙についてどのような内訳が書かれているかを見ます。確かめたいのは、次の3つです。

  • 単価:1㎡あたりや1mあたりの単価がいくらで計算されているか
  • 範囲:どの部屋の、どの面を張り替える費用として請求されているか。傷や汚れのある一面だけか、部屋全体か
  • 経過年数:入居していた年数を考えて、入居者の負担割合が減らされているか

国土交通省のガイドラインは、壁紙(クロス)の張り替えで入居者が負担する範囲について、「㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする」としています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」)。傷のある面が1つなのに、部屋全体の張り替え費用がそのまま入居者の負担として書かれていれば、確かめる理由になります(喫煙などで部屋全体のクロスがヤニで変色したり臭いが付いたりした場合に限っては、部屋全体のクリーニングや張り替えの費用を入居者の負担とすることが妥当とされており、扱いが異なります。その場合も、経過年数を考えて負担割合を計算する考え方は変わりません)。

内訳が「クロス張替え一式」のように金額だけで、単価も範囲も分からない場合は、それ自体を管理会社に聞いてかまいません。内訳の説明を求められることは、あとの見出しでガイドラインの記述とあわせて紹介します。

請求書や見積書に出てくることがある「㎡単価」「m単価」「一式」といった書き方や、「量産」「1000番」といった壁紙のグレードの呼び名は、壁紙張り替え費用の内訳とは?㎡単価1,500〜2,500円に含まれるもの・別途になるもの、見積書の言葉を整理で整理しています。張り替えを頼む人に向けて見積書の言葉をまとめた記事ですが、言葉の意味は請求書を読むときの参考になります(記事中の金額や、ほかの会社に見積もりを取って比べる方法は、張り替えを頼む場合の話で、請求額が妥当かどうかを決める基準ではありません)。

賃貸借契約書の特約(通常の損耗まで負担させる条項があるか)

次に、賃貸借契約書を開いて、「特約」や「特記事項」の欄を見ます。退去時の壁紙の張り替え費用を、傷みの原因にかかわらず入居者の負担とする、といった条項が入っていることがあるためです。

国土交通省と日本賃貸住宅管理協会が入居者向けにまとめた資料でも、「物件によって負担割合の考え方がガイドラインと異なることがあるので、契約書の特約内容をしっかり確認しましょう」とされています(出典:国土交通省住宅局・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント」)。

特約が見つからなければ、ガイドラインの基本ルールに沿って考えることになります。特約が見つかった場合も、書いてあればそのとおりに払うしかない、とは限りません。特約がどのような場合に有効と考えられているかは、このあとの「特約があるときの見分け方」で整理します。

原状回復の基本ルール:経年変化・通常損耗は貸主負担が原則

同じ柄の壁紙の壁を左右に並べた図。左はほとんど目立たない跡だけ、右は落書きと引っかき傷が目立つ

請求書が妥当かどうかを考えるときの土台になるのが、「原状回復」の意味です。

ガイドラインは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義しています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

つまり、原状回復は「借りたときの新品の状態に戻すこと」ではありません。ガイドラインのQ&Aでも、「賃貸借における原状回復とは、賃借人が入居時の状態に戻すということではありません」と書かれています(出典:同上)。年数とともに壁紙が色あせたり、普通に暮らしていて少しずつ汚れたりした分は、入居者が退去時に負担するものではない、というのが基本の考え方です。

なお、この記事で紹介するのは、民間の賃貸住宅を想定した国土交通省のガイドラインの考え方です。UR賃貸住宅や都営住宅も、経年変化・通常損耗は貸主の負担という基本の考え方は同じですが、負担区分の細かい決まりや確認先がそれぞれ別にあります。こちらはUR賃貸住宅の壁紙張り替え|経年劣化はUR負担、自費なら「簡易模様替え」の届け出と、都営住宅の壁紙張り替えはできる?入居中・退去時にできる3つのことと相談先で扱っています。

「6年で残存価値1円」という考え方

入居者が負担する傷みがあった場合でも、その張り替え費用を全額負担するとは限りません。

ガイドラインは、壁紙(クロス)について、「6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する」としています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。新しい壁紙の価値が年数とともに下がっていくと考え、その分を差し引いて入居者の負担割合を決める、ということです。入居者向けの資料でも、過失による損傷があった場合について、「設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど賃借人の負担を減らすことが一般的です」とされています(出典:国土交通省住宅局・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント」、前出)。

たとえば5年、6年と長く住んだ部屋で、壁紙の張り替え費用が新品の価格のまま全額請求されているなら、経過年数が考えられているかを確かめる理由になります。

ただし、6年を過ぎれば入居者の負担が必ずゼロになる、というわけではありません。ガイドラインは、経過年数を超えた壁紙でもまだ使える状態のものを、入居者が故意に落書きするなどして使えなくした場合には、元に戻すための工事費などが入居者の負担になることがある、としています(出典:同上)。また、どの時点を起点に年数を数えるかは、入居したときに壁紙が新しかったかどうかによって変わります。起点の決め方や負担割合の計算の考え方は、大家さん向けに整理した壁紙の耐用年数は6年?原状回復ガイドラインの負担割合と「一面分まで」の原則で詳しく扱っています。

入居者が負担するのは、故意・過失や通常の使い方を超える傷みの分

では、どのような傷みが貸主の負担で、どのような傷みが入居者の負担になりやすいのでしょうか。入居者向けの資料では、壁(クロス)について次のような例が挙がっています(出典:国土交通省住宅局・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント」、前出)。

  • 冷蔵庫の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ):通常損耗として、貸主の負担
  • エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡:通常損耗として、貸主の負担
  • 台所の油汚れ(使用後の手入れが悪くススや油が付着している場合):通常の使用を超えるものとして、入居者の負担

同じ資料は、入居者の負担になりやすいケースとして、「畳、クロスやフローリングへの落書き」「飼育しているペットによる壁等の傷」「結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ」「引越作業で生じたひっかき傷」「タバコ等のヤニ・臭い」「壁等のくぎ穴、ネジ穴(エアコン設置は除く)」も挙げています(出典:同上)。

壁の穴については、ガイドラインがもう少し細かく分けています。「壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)」は貸主の負担、「壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)」は入居者の負担とされています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。画鋲やピンの小さな穴まで、入居者の負担になるわけではありません。

小さなお子さんが壁紙に描いた落書きや、ペットがつけたひっかき傷は、入居者の負担になりやすい例に入っています。一方で、冷蔵庫の裏の黒ずみのように、普通に家電を置いて暮らしていれば生じるものは、貸主の負担とされています。台所の油汚れも、「手入れが悪く」付着した場合という条件つきで入居者の負担の例とされている点に注意してください。

なお、ガイドラインは、こうした区分は一般的な事例を想定したもので、同じ種類の傷みでも、程度によって扱いが変わることがあるとしています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。壁紙の剥がれや汚れのように、この例にそのまま載っていない傷みもあります。その場合も、年数や普通の暮らしで生じたものか、使い方や不注意によって生じたものか、という同じ考え方で区分を見ていきます。自分のケースがどちらに当たるか分からないときは、請求の根拠を管理会社に聞いてみるのが確実です。

請求書の単価が高いと感じたら、内訳の説明を求められる

負担する範囲には納得できても、壁紙の単価そのものが高いと感じることもあります。ガイドラインのQ&Aには、まさにこの場面の問いがあります。

グレードアップ分(高級なクロスへの変更)の負担は不要

ガイドラインのQ&Aでは、「クロスの張替費用の単価が以前に退去した賃貸住宅に比べて高く、納得できません」という問いに対して、次のように答えています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

まず、原状回復に要する費用は「使用されている資材のグレードや施工方法などにより物件ごとに異なるもの」で、単価として表示されている費用には「資材の材料費だけでなく、修繕等の工事のための施工費用(労賃など)が含まれていることが多い」とされています。前に住んだ部屋の単価と違うことだけで、すぐに不当とは言えない、ということです。

そのうえで、ガイドラインは「賃借人が負担すべき原状回復費用は、経過年数および通常損耗を考慮した状態にすることが前提であり、高級品のクロスの使用などグレードアップの費用を負担する必要はありません」としています(出典:同上)。もとの部屋の壁紙よりも高いグレードの壁紙に張り替える費用が、そのまま入居者の負担になっているなら、その差額は負担する必要がない、ということです。

疑問点は賃貸人・管理会社に確認してみる

同じQ&Aは、「疑問がある点には、賃貸人や管理会社に、費用の内容の内訳などについて確認してみることも考えられます」と続けています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

確認するときは、「高すぎるので下げてください」と結論から伝えるよりも、請求書のどこが分からないのかを具体的に聞くほうが、話が進みやすくなります。たとえば、次のような点です。

  • 単価には、材料費と工事の費用のどちらが含まれているか
  • どの面を、何㎡張り替える計算になっているか
  • 入居していた年数を考えた負担割合になっているか
  • 張り替える壁紙は、もとの壁紙と同じくらいのグレードか

答えを聞いてみると、納得できる理由が分かることもありますし、計算の考え方に食い違いが見つかることもあります。いずれにしても、何を根拠にその金額になったのかが分かれば、次に何をすればよいかを考えやすくなります。

立会いでサインした後でも、疑問があれば主張できる

退去の立会いで傷や汚れを指摘され、その場で確認の書面にサインした。あとで請求書を見て高いと感じても、「もうサインしたから」とあきらめてしまう方は少なくないと思います。ガイドラインのQ&Aには、この場面についての問いもあります。

サイン=原状回復費用の負担を了承したとは限らない

ガイドラインのQ&Aは、立会いで確認サインをしたあとに高額な請求書が届いた、という問いに対して、「確認された内容にもよりますが、単に損傷があることの確認であれば、原状回復費用負担について了承したものではないと考えられますので、ガイドライン(特約があれば特約)に基づき、賃借人が負担すべきものか、調整することとなると考えられます」と答えています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

まずは、サインした書面に何が書かれていたかを思い出すか、控えがあれば見直してみてください。「この場所に傷がある」という確認だったのか、「この費用を負担する」という了承だったのかで、考え方が変わります。

一方で、同じQ&Aは、「損傷があり、その分の負担をすることを了承した場合は、基本的にはその確認内容に基づき、原状回復費用の負担額が決定されます」とも書いています(出典:同上)。サインしたことがまったく意味を持たない、というわけではありません。

特約が無ければ、故意・過失によらない傷みの分まで負担する理由はない

負担を了承する書面にサインしていた場合でも、すべてが決まってしまうわけではありません。ガイドラインは、「賃貸契約書において原状回復に関する特約がない場合は、賃借人の故意・過失等によるものでない損傷については、そもそも賃借人の負担する必要のないものであり、仮にその分も含め確認サインをしていたとしても、その分についてまで負担する原因・理由はないため、その旨を主張することができます」としています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

日焼けによる色あせのように、自分の故意や不注意によるものではない傷みまで含めてサインしてしまっていた場合、契約書に特約が無ければ、その分は負担する理由がないと伝えることができる、ということです。

ガイドラインは、この答えの最後に「特約については必ずしも有効であるとは限りません」とも添えています(出典:同上)。特約があった場合の考え方は、次の見出しで整理します。また、ガイドラインは、立会いでの確認は原状回復の費用負担を決めるうえで重要なものなので、疑問がある場合は質問するなど、十分慎重に行うことが必要だとしています(出典:同上)。

特約があるときの見分け方

契約書に、「退去時のクロスの張り替え費用は、賃借人の負担とする」のような特約が書かれていることがあります。特約があると、ガイドラインの基本ルールとは違う負担の決め方になることがありますが、どのような特約でも有効になるわけではありません。

特約の効力を考えるときの3つの要件

ガイドラインは、経年変化や通常損耗の修繕まで入居者に負担させる特約について、次の3つの要件を満たしていなければ効力を争われることに十分留意すべき、としています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

  • 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

かみくだくと、①その負担を求める理由があり、暴利的な(不当に重い)負担になっていないこと、②入居者が「本来なら払わなくてよい分まで負担する」と分かっていたこと、③そのうえで入居者が負担することに同意したこと、の3つです。契約書に書かれているだけで有効と決まるわけではなく、入居者がその意味を分かったうえで同意していたかも問われる、ということです。

特約が有効かどうかについては、ガイドラインが紹介している裁判例でも、特約の成立そのものが認められなかった例が多い一方で、文言どおりに効力が認められた例もあり、判断が分かれています(出典:同上)。契約書の書き方や、契約のときにどのような説明があったかなど、個別の事情によって判断が分かれるので、自分の契約の特約が有効かどうかを自分だけで決めつけるのは避けたほうが無難です。判断に迷うときは、後で紹介する相談窓口に相談してみてください。

契約書に具体的な範囲・単価が明記されているかを見る

特約を見るときの手がかりになるのが、書き方の具体性です。

ガイドラインは、通常損耗の補修費用を入居者に負担させる特約について、裁判所の判断を紹介しています。そこでは、入居者が負担することになる通常損耗の範囲が、契約書の条項そのものに具体的に書かれているか、あるいは、貸主が口頭で説明して入居者がそれを明確に認識し、合意の内容としたと認められるか、が必要とされています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。

手元の契約書で、たとえば次のような点を見てみてください。

  • 「原状回復費用は賃借人の負担とする」のように、範囲が分からない書き方だけになっていないか
  • 壁紙について、どのような傷みの分を、どこまで入居者が負担するのかが具体的に書かれているか
  • 単価や金額の目安が書かれているか

単価については、ガイドラインのQ&Aも、「契約時に施工単価についても賃貸人・賃借人の双方が確認しておくことが望ましい」としています。特約の説明の中でも、将来入居者が負担することになる費用がどの程度になるか、単価などを示しておくことは、紛争を防ぐうえで欠かせないとされています(出典:同上)。範囲も単価も書かれておらず、契約のときに説明を受けた覚えもない場合は、その点を管理会社に確かめてみる理由になります。

明細が届かない・納得できないときの相談先

左の集合住宅から右の窓口へ矢印が向かい、書類を持って窓口へ相談に行く流れを表した図

請求書に内訳が無い、そもそも明細が届かない、確認しても納得できない、という場合に取れる行動も整理しておきます。

明細は請求して、説明を求められる

ガイドラインのQ&Aは、明け渡しのあとに原状回復費用の明細が送られてこない、という問いに対して、「賃貸人には、敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、賃借人は賃貸人に対して、明細を請求して説明を求めることができます」と答えています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。続けて、貸主が敷金から原状回復費用を差し引く場合は「その具体的根拠を明らかにする必要」がある、とも書かれています(出典:同上)。

国民生活センターも、退去時に納得できない請求をされた場合は「貸主側に費用の明細等の説明を求め、費用負担について話し合いましょう」と呼びかけています(出典:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」)。

金額だけの請求書しか届いていない場合は、まず管理会社や大家さんに、壁紙の単価・面積・経過年数の考え方が分かる明細を出してもらえるよう頼んでみてください。やり取りはできるだけメールや書面で残しておくと、あとで相談窓口に相談するときにも経緯を説明しやすくなります。

解決しない場合は、消費生活センターや(公財)日本賃貸住宅管理協会へ

管理会社や大家さんと話しても納得できない場合は、第三者の窓口に相談する方法があります。

退去時の原状回復をめぐる相談は、少なくありません。国民生活センターが公表している、賃貸住宅の原状回復トラブルについてPIO-NETに登録された相談件数は、2023年度が13,273件、2024年度が13,312件、2025年度が14,711件でした。なお、この件数には、消費生活センター等からの経由相談は含まれていません(出典:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」)。寄せられた相談の例には、「6年半居住した賃貸マンションを退去した。原状回復費用として、クロスの張替えなどの見積書が届いたが、高額で納得できない」というものもあります(出典:同上)。

相談先としては、次の窓口があります。

  • 消費生活センター:ガイドラインは、賃貸住宅についての相談・苦情処理を、地方公共団体の相談窓口や消費生活センターなどの行政機関でも行っているとし、行政機関では「紛争解決への助言・あっせん、紛争解決制度等の情報提供など」を行っている、としています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。国民生活センターも、納得できない場合やトラブルになった場合は消費生活センター等に相談するよう呼びかけ、「お住まいの自治体の消費生活センター等にお問い合わせください」と案内しています(出典:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」、前出)
  • (公財)日本賃貸住宅管理協会:入居者向けの資料は、「原状回復に関してお困りの場合は、日本賃貸住宅管理協会のホームページで相談を受け付けていますので、ご活用ください」と案内しています(出典:国土交通省住宅局・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント」、前出)

相談するときは、賃貸借契約書、立会いでサインした書面の控え、請求書や明細、部屋の写真、管理会社とのやり取りの記録を手元にそろえておくと、状況を伝えやすくなります。なお、ガイドラインは、話し合いで解決しない場合の手段として、簡易裁判所の少額訴訟や調停といった制度も紹介しています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、前出)。どの手段が合うかは状況によるので、まずは相談窓口で話を聞いてもらうとよいでしょう。

まとめ

退去費用で壁紙(クロス)の張り替え代を請求されたときに確かめたいことを、国土交通省のガイドラインと入居者向けの資料をもとに整理します。

  • 請求書を受け取ったら、まず「請求書の内訳(単価・範囲・経過年数)」と「契約書の特約」の2つを確かめる
  • 原状回復は新品に戻すことではない。経年変化や普通に暮らしていて生じる傷みは、貸主の負担とする考え方が基本
  • 入居者が負担するのは、故意や不注意による傷など、通常の使い方を超える傷みの分。その場合も、壁紙は経過年数を考えて負担割合を減らす考え方がとられる
  • 単価には材料費だけでなく工事の費用も含まれることが多い。ただし、もとの壁紙より高いグレードへの変更分は負担しなくてよい
  • 立会いでのサインが、単に傷があることの確認なら、費用の負担を了承したことにはならないと考えられる。特約が無ければ、故意・過失によらない傷みの分まではサインしていても負担する理由はない
  • 特約は書いてあれば必ず有効とは限らない。必要性・合理性、入居者の認識、入居者の意思表示の3つの要件が示されており、範囲が具体的に書かれているかが手がかりになる
  • 明細は請求して説明を求められる。納得できなければ、消費生活センターや(公財)日本賃貸住宅管理協会に相談できる

壁紙の張り替え代は、請求書の数字だけを見ると高いか安いかを判断しにくいものです。まずは手元の請求書と契約書を並べて、どの面を、どの単価で、何年分を考えて計算しているのかを確かめてみてください。分からない点は管理会社や大家さんに具体的に質問し、それでも納得できないときは、ひとりで抱え込まずに消費生活センターや日本賃貸住宅管理協会の窓口に相談してみてください。

請求書と契約書を確かめても納得できない入居者の方は、管理会社・大家さんへの確認と、消費生活センター等への相談を進めてください。当店では、入居者様からの退去費用(請求額)についてのご相談はお受けしておらず、張り替えのお申し込みも、まず大家さん・管理会社へのご確認をお願いしています。入居者の退去後に、どの面をどこまで張り替えるかを決めたい大家さん・管理会社の方は、無料の現地調査・お見積もりをご利用ください。

電話が難しい方はでもご相談いただけます。

この記事の執筆者

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氏名:松田郁幾
実績:壁紙張り替えを中心に、これまで多くのお客様・職人と関わってきました。
この記事について:現場で見聞きした実例をもとに、誇張せず、実践的な視点で解説しています。

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