
地震でクロスに亀裂や破れが入り、「今度、保険調査員が見に来るので、地震保険でどのくらい直してもらえるだろう」と考える方は少なくありません。ですが地震保険は、クロスの傷み具合そのものを個別に査定して保険金額を決める制度ではありません。判定されるのは建物全体の被害の重さで、「全損・大半損・小半損・一部損」のいずれかに区分されたうえで、区分に応じた保険金が定額で支払われる仕組みになっています。
クロスの傷みは、原則としてこの判定の対象になりません。壁紙・クロスは建物の主要構造部にはあたらないため、クロスだけが傷んでいても、それ単体で保険金が出ることはないのです。ただし一つだけ例外があり、ツーバイフォーと呼ばれる枠組壁工法の住宅では、内壁も主要構造部の判定項目に含まれています。これがクロスの表面の傷みを直接指すのかは分かっていませんが、室内側の壁の状態が査定に関わりうる、という点で在来軸組工法とは扱いが異なります。
この記事を読むと、次のことが分かります。
- 地震保険の損害区分がどんな基準で決まるか
- クロスの傷みが査定に直接関わるケースとそうでないケースの違い
- 保険調査員が来るまでに気をつけたいこと
- 調査結果が出たあとクロスの張り替えをどう進めればよいか
読み終えるころには、いま自分の家がどちらのケースにあたりそうか、調査の結果が出るまで何に気をつけて過ごせばよいか、見通しが持てるはずです。
地震保険の請求手続きは保険会社・代理店へのご相談が基本です。調査後のクロスの張り替えについて気になる点があれば、お気軽にお問い合わせください。
電話が難しい方はメールでもご相談いただけます。
クロスの傷みそのものは、原則として保険金の対象にならない

(この記事では、一戸建て――在来軸組工法またはツーバイフォーと呼ばれる枠組壁工法――にお住まいの場合を前提に説明します。分譲マンションなど区分所有建物は判定の仕組みが一部異なります。)
地震保険の保険金は、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」という4段階の損害区分のいずれかに認定されたうえで、契約している地震保険金額に対して区分ごとに決められた割合が支払われる仕組みです。全損は保険金額の100%、大半損は60%、小半損は30%、一部損は5%が支払われます(出典:日本損害保険協会「地震保険 損害の認定基準について」(2022年10月改定版))。
この区分を決めるのは、建物の主要構造部(柱・基礎・屋根・外壁など)の損害額が、建物の時価に対してどれくらいの割合にあたるかです。損害額が時価の50%以上なら全損、40%以上50%未満なら大半損、20%以上40%未満なら小半損、3%以上20%未満なら一部損とされ、3%に満たない場合は保険金の支払い対象になりません。
そして、壁紙・クロスはこの「主要構造部」にはあたりません。東京海上日動火災保険は公式のよくある質問で、次のように説明しています。
「地震保険では建物の主要構造部(軸組、基礎、屋根、外壁等)の損害状況に基づき保険金が支払われます。壁紙・クロスは主要構造部に該当しないため、壁紙・クロスのみに生じた損害に対しては、保険金は支払われません」(出典:東京海上日動火災保険「【地震保険】「壁紙・クロス」のみに生じた損害は、補償されますか?」)
つまり、リビングの壁に亀裂が入っていても、それが壁紙の表面だけの損傷であれば、原則として保険金の支払い対象にはなりません。認定された区分に応じて支払われる保険金は定額であり、実際にクロスを張り替える工事費用の額と直接連動するものでもありません。受け取った保険金をそのまま張り替え費用に充てるかどうかは、契約者の判断に委ねられています。
ただし、ツーバイフォー工法の住宅は内壁も判定項目に含まれる
一つだけ例外があります。ツーバイフォーと呼ばれる枠組壁工法の住宅では、この工法の損害認定基準表で「外壁・内壁・基礎・屋根」が主要構造部の判定項目として明記されており、内壁にひび割れが生じた範囲に応じて損害割合が直接算出されます(3%以下なら損害割合3%、10%を超え15%以下なら35%というように段階的に定められ、15%を超えるとその内壁の損傷だけで全損の扱いになります)(出典:日本損害保険協会「地震保険 損害の認定基準について」(2022年10月改定版))。
ここでいう「内壁」が、壁紙の破れ方そのものを指しているのか、その下の壁の構造的な歪みを指しているのかは、公開されている基準表の記載だけでは判別できません。実務者の間でも見解が分かれている部分で、確実に言えるのは「在来軸組工法にはない”内壁”という判定項目が、枠組壁工法には存在する」という事実だけです。
一般的な木造戸建てで使われる在来軸組工法の基準表には、この「内壁」という項目自体がありません。着目されるのは軸組(柱など)・基礎・屋根・外壁で、内壁のひび割れが直接数値化されることはないのです。
つまり、在来軸組工法の住宅では内壁の状態が判定に直接反映されない一方、ツーバイフォー工法の住宅では内壁の状態が損害割合の計算にそのまま組み込まれます。それがクロスの表面の傷み方とどこまで一致するかは分からない、という前提のうえで押さえておいてください。自分の家がどちらの工法かは、新築・購入時の設計図書や、建てた工務店・ハウスメーカーに確認すると分かります。
保険調査員が来るまでに、まずやってはいけないこと

保険調査を待っている間、「早くきれいにしたいから」とクロスだけ先に本格的な補修をしてしまいたくなるかもしれません。ですが、これは避けるべきです。地震保険とは別のケースですが、雨漏りの被害箇所を保険会社の調査前に直してしまい、結果として保険が適用できなくなった、という実例があります。被害の状態を保険会社が確認する前に手を加えてしまうと、そもそもどの程度の被害があったのかを証明できなくなり、保険金の支払いに影響が出るおそれがあります。
ただし、割れたガラスの片付けや、雨風が入り込む箇所へのブルーシート養生など、安全や二次被害の防止のために必要な最低限の応急処置まで我慢する必要はありません。控えるべきは、クロスの張り替えなど本格的な補修工事です。
一方で、「調査前に被害箇所の写真を残しておくこと」は、無駄にはなりません。保険会社の損害調査は、実際には調査員が現地で目視して被害状況を確認する形で行われるため、写真の有無だけで査定が大きく変わるとは限りませんが、記録として残しておけば、あとで保険会社とやり取りする際の説明材料にもなります。いずれにしても、大切なのは「本格的な補修は調査後にする」という点です。
調査結果が出たあと、クロスの張り替えをどう進めるか
保険会社の調査が終わり、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」のいずれかの認定結果、または対象外という結果が届いたら、そこからがクロスの張り替えを具体的に考える段階です。
ここで押さえておきたいのは、認定された保険金と、実際にクロスを張り替える工事費用は、金額として連動しないということです。保険金は建物全体の被害区分に応じて定額で支払われるもので、クロスの張り替えにいくらかかるかを個別に積算した金額ではありません。受け取った保険金をそのまま張り替え費用に充てるのか、それとも保険金は生活の立て直しに回して張り替え費用は別に用意するのかは、お客様が自由に判断してよいことです。
また、一部損にも至らず保険金の支払い対象外だった場合でも、クロスの傷みそのものがなくなるわけではありません。その場合は、実費での張り替えを検討することになります。
リフォーム業者への相談・見積もり依頼は、保険会社の調査結果を待ってからで十分間に合います。調査結果が出る前に工事を進めてしまうと、前の章で触れたとおり保険金の支払いに影響するおそれがあるため、まずは調査を終えることを優先してください。調査結果が出た段階で、リビングだけを直すのか、他の部屋もあわせて直すのか、費用感も含めてご相談いただければ、その範囲でできるプランを一緒に考えます。
まとめ:クロスの張り替えは、まず調査の結果を待ってから
ここまで見てきたとおり、地震保険は次のような仕組みで動いています。
- 保険金は、建物全体の被害の重さ(全損・大半損・小半損・一部損)で決まる。クロスの傷み具合を個別に見て金額が決まるわけではない
- 壁紙・クロスは主要構造部にあたらないため、原則としてクロス単体の損傷では保険金は出ない(ツーバイフォー工法の住宅だけは内壁が判定項目に含まれるが、これがクロス表面の傷みを直接指すかは分かっていない)
- 保険調査の前に自己判断でクロスを直してしまうと、被害の証明ができなくなり、保険金の支払いに影響するおそれがある
いま一番大切なのは、保険会社の調査が終わるまで、クロスの本格的な補修はせずに待つことです(安全確保のための最低限の応急処置は別です)。調査結果が出れば、その内容を踏まえてクロスをどこまで、どう張り替えるかを具体的に考える段階に進みます。認定された保険金の額と工事費用は別物なので、調査結果が出た段階でご相談いただければ、その範囲でできるプランを一緒に考えます。
保険調査の結果が出て、クロスの張り替えを具体的に考える段階になったら、お気軽にご相談ください。
電話が難しい方はメールでもご相談いただけます。 氏名:松田郁幾この記事の執筆者

実績:壁紙張り替えを中心に、これまで多くのお客様・職人と関わってきました。
この記事について:現場で見聞きした実例をもとに、誇張せず、実践的な視点で解説しています。



